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平成16年 朝日新聞 くらしの良品探訪 遠藤ケイ氏 新発田(しばた)城は、堀に葉桜の濃い緑を映していた。 石垣の穏やかな曲線に続く、表門と隅櫓(すみやぐら)の白壁が美しい。 かつて10万石の城下町だった新発田は、阿賀野地方の中心都市だった。城下町独特の曲がりくねった道を歩くと、家に財を投じる気風を見る楽しみもある。 旧家に招かれると、庭に面した座敷に簾戸(すど)がはまっている。そろそろ夏に衣替えする季節になった。 初夏を迎えると、襖や障子を、風通しのいい簾(すだれ)をはめこんだ建具に替える。 簾戸は夏障子とも言われる。簾の材料は、竹、葦、萩などがあり、葭戸(よしど)とも呼ばれる。 夏の季語で「葭障子 細身の風の 来たりけり」(草間時彦)などがある。 簾戸には、蒸し暑い日本の夏を快適に過ごすための知恵と同時に、日本人独特の繊細な美意識、自然と暮らしを融合させる情緒性が投影されている。 簾戸をはめると、座敷がとたんに風雅な趣に一変する。室内はほのかに暗く、簾を透かして見える外の風景が光に満ちて華やいでいる。涼やかな風を感じることができる。建具の杉や竹の香がにおい立つ。昼は外から中が見えにくい。安らぎがあって、くつろげる。 地理学者のJ・アップルトンによると、人間や動物が一番落ち着く風景は、「隠棲(いんせい)と探索」「眺望と隠れ」という両義的な自然の風景だといわれる。本能的に、外的や雨風から身を隠し、守るシェルターとしての家と、そこから見る視野がうまく調和していると安らぎを感じる。簾戸が、まさにそうだ。 新発田の「高橋建具製作所」は、伝統的な簾戸にこだわっている。桟は目がつんだ杉材。軽くて色がよく、香りがいい。ホゾを刻み、きっちりと組み合わせる。簾は細い竹を細かく編んで桟で挟んで張る。少し値が張るが、注文で葦や萩の簾にもできる。 簾戸に黒竹をあしらったタイプや、透かし彫りのの板をはめ込んだタイプもある。また、全面を簾にすると虫が入ってこない。縁側や、洋室にも合う。 「製造直販しかしていません。お客さんの声や要望をじかに聞いて、満足してもらえるものを作りたい」 社長の高橋孝一さん(54)がいう。セミオーダーで、依頼者に寸法を測ってもらい、ぴったりはまる簾戸を作る。家の建具を一緒に作る喜びがある。価格も市価より安い。 簾戸に替えて、日本の夏の風情を楽しむのも一興だ。 |